2017-07-08

1130万人のワーキングプア層の生活不安定化が生み出すもの


1年を通じて働いているのに賃金が200万円以下の人たちを社会は「ワーキングプア」と呼ぶ。直訳すると「働いているのに貧困」という意味になる。

当初アメリカで見られたこのワーキングプア層は、日本でも「非正規雇用」が拡大したことによって、小泉政権以後どんどん膨れ上がっていくことになった。

国税庁「民間給与実態統計調査」では、2006年にワーキングプアは1000万人を超えて、2015年には約1130万人に膨張していったと記している。

非正規雇用はもちろんこれからも増える。

それは企業の立場から見れば分かる。非正規雇用で人が安く雇える仕組みができたのに、なぜわざわざ正社員を増やしてコストを上げなければならないのか。

正社員を減らせば減らすほど非正規雇用で人が安く雇えるようになって、しかも景気が悪くなればいつでもリストラできるのだから、非正規雇用という仕組みを企業が自分から捨てるのはあり得ない。

企業はこれからもコスト削減に邁進して、コストの最も大きな部分を占める人件費をいかに引き下げるかに腐心する。


資本主義なのに、資本を増やす道が断たれている


企業の経営者と株主は、企業がコストを削減してその分を利益として計上すれば自分たちが儲かる。

彼らは利益を吸い上げ、どんどん金持ちになっていく。企業が内部留保した利益にアクセスできるからである。

労働者は自分たちの賃金が引き下げられ、最後には「使い捨て」されるので、いずれはワーキングプアになる。格差とワーキングプアは表裏一体の関係にある。

それであれば、労働者も起業するか経営者になるか株主になればいいと考える人もいるのだが、現実を見るとそのどれも望み薄だ。

起業は10年で90%が破綻する世界である。経営は高学歴のエリートが地位を独占する。そしてワーキングプア層は年収200万円かそれ以下なので、生活に窮して株式を買うような余裕などないことの方が多い。

資本主義なのに、資本を増やす道が断たれているのである。

現在の資本主義は巨大企業が莫大な利益を吸い上げて肥え太るようになっており、端的に言えば経営者か株主になれなければ救われない社会となっている。

日本人の約1130万人は、最初から資本主義の埒外に蹴落とされていて、絶望的なまでに厳しい社会を生きなければならなくなっている。

この厳しい世界が生み出すのが、人生の不安定化である。

仕事は安定しない。企業が景気が悪いと思えば「雇い止め」するので、自分の都合とは関係なく頻繁に仕事がなくなる。そして「雇い止め」されたら、すぐに次の仕事が見付かるわけでもない。

この不安定化は外部からもたらされているので、自分ではどうしようもない状況であると言える。

仕事が安定しないのだから、当然のことながら賃金も安定しない。賃金が減って生活が安定するわけがない。貧困化すると、人生の不安定化は極度に増す。

ワーキングプア層はいつまで経っても浮かばれない


賃金減少のショックを緩和するのが貯金だ。しかし、常にギリギリの生活を強いられていると、その肝心な貯金ができない。できたとしてもわずかな額でしかない。

これは、日本人の約40%は貯金額がゼロなのであることで見て取れる。ワーキングプア層こそ「何かあったときのため」に貯金をしなければならない。ところが、その層に貯金がない。これも不安定化を増大させる。

では、雇い止めされて賃金がもらえず貯金も消えたら、ワーキングプア層はいったいどのように危機をしのげばいいのか。そこに出てくるのがキャッシング(借金)である。

クレジットカードを使うにしろ、消費者金融を使うにしろ、金利は驚くほど高い。貯金しても0.02%くらいしか金利がつかないのに借金をすると途端に11%だとか15%の金利を毟り取っていくのが銀行だ。

こんなところで金を借りたら、以後は金融機関の奴隷のようになってしまうしかない。働いても働いてもわずかな賃金しかもらえず、その賃金を今度は金融機関にごっそりと毟り取られていくのである。

これで、生活の不安定化はさらに増す。

ワーキングプア層は、それでも社会に理解されたり保護されることはない。むしろ社会や政府から冷たい扱いを受けることの方が多い。

ワーキングプア層は企業から搾取されて使い捨てされている側なのに、なぜか社会からは「努力が足りない」「自業自得だ」と罵られる。

政府もあまりワーキングプア層の存在に触れない。なぜなら貧困層が増えたという統計や事実や社会現象は「不都合な真実」だからである。

あまりそこに光が当たると、それが政権批判の種になるので政府としてはなるべく触れたくない。

そのため、政府は往々にして大企業の正社員賃金が上がったとか、株価が上がったとか、そういったワーキングプア層に関係のないところで経済対策を行って終わりにする。

社会からも無理解や無視されるので、ワーキングプア層はいつまで経っても浮かばれない。そうした立場もまた、ワーキングプア層の生活を不安定化させる。

不安定化が極限まで行き着くと、どうなるのか?


そんな不安定化した生活を強いられると、絶望や自暴自棄や慢性的なストレスや精神疲労に追い込まれても仕方がない。心も身体も壊れやすくなる。

鬱病に追い込まれたりすると、もはや生活破綻を避けられない状態となる。ワーキングプア層が生活保護受給者になるのは、そうしたケースが多い。

ワーキングプア層の生活の極度の不安定化は、絶望しか生み出さず、それが社会の底辺に渦巻く閉塞感となっている。

では、その底辺の人々の極度の不安定化と閉塞感は何を生み出すのか。

それは、いち早くワーキングプア層の増大を生み出した国家であるアメリカを見れば分かる。

アメリカでは2000年代の金融機関の壮大なマネーゲームで格差が広がり、2008年9月15日のリーマン・ショックで「大きすぎる銀行は潰せない」として国民の税金で金融機関を救済した。

これ以後、アメリカでは「ウォール街を占拠せよ」運動が広がり、「1%の金持ちとそれ以外の99%」の分断が国を揺るがすようになった。

やがて反グローバル化の声が大きくなり、グローバル化を擁護するマスコミに激しい批判がインターネットで繰り広げられ、保守が台頭し、泡沫候補だったはずのドナルド・トランプを大統領に押し上げた。

これらの動きはすべて「底辺の人々の極度の不安定化と閉塞感」の爆発という根源的なもので一直線につながっている。つまり、「底辺層の不安定化は、社会システムそのものを不安定化させる」のである。

これからも日本でワーキングプア層がどんどん増えていき、彼らの不安定化が極限まで行き着くと、それが社会全体に波及していっても不思議ではない。

「今の社会は不満だ。どのようにしたらいいのか分からないが、今の社会を破壊したい」と考える層は間違いなく底辺で増えている。



亀裂は放置すると広がる。これからも日本でワーキングプア層がどんどん増えていき、彼らの不安定化が極限まで行き着くと、それが社会全体に波及していっても不思議ではない。


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