2016-07-18

最低賃金を引き上げると、貧困層がより貧困化する理由とは


通常、「最低賃金を引き上げる」というのは、低賃金にあえぐ貧困層の救済になる提言であり、それはぜひとも実現すべきだと私たちは疑いを持たなかった。

しかし、アメリカのリバータリアニズム系のシンクタンク組織であるケイトー研究所のトーマス・ファイレイ氏は、まったく違う考え方を持っているようだ。

氏はケイトー研究所のサイトで「最低賃金を引き上げる」ことが逆に貧困層を追い詰める結果になっているとして、「最低賃金の廃止」を提言している。

いったいこれはどういうことなのか。

社会学者の研究によると、現在では「最低賃金の引き上げによって低所得者層の失業が増える」結果になっているということが分かってきているという。

アメリカの貧困層の多くは黒人やヒスパニック系なのだが、彼らが失業するのは、最低賃金が引き上げられた結果、賃金に見合わないスキルを持った人間が自然に雇用から排除されるようになるからだという。

つまり、賃金が低いままだと大したスキルがない人も雇えていたのだが、最低賃金が上がることによって有能な人を厳選して雇用して残りを排除するという現象が現場で起きていた。


最低賃金が高いと、スキルの低い人が排除される


誰にでもできると世間に思われているウエイトレスの仕事であっても、スキルと経験のある人間とそうでない人間では仕事量も顧客満足もまったく違ってくる。

有能な人はどんな単純労働でも優秀な結果を出す。未熟な人はどんな単純労働でも問題のある結果を生み出す。

しかし、優秀な人はどこにでもいるわけではないし賃金も高い。そのため、企業は未熟な人であっても「賃金が安ければ」という条件で雇って育てようと考える。

賃金が低ければ、未熟な人を雇ってスキルが向上していくたびに賃金をスキルにスライドさせて上げていくという雇用方法が取れるのだ。

しかし最低賃金が高めに設定されると、最初から優秀な人を雇って効率を優先しないと利益が出せない。その結果、スキルの低い人たちを雇わなくなる。

スキルの低い人というのは、能力も適性もやる気もない人だけを指すのではない。

社会経験のない若年層はどんな仕事をするにしても、その大半はスキルがない。

またリストラに見舞われて慣れない仕事に就かざるを得なくなった人も、新しい仕事ではスキルがない。かつては高いパフォーマンスを持っていた人でも、年齢や病気や怪我でスキルが低下してしまうこともある。

最低賃金が高いと、スキルの低い人には永遠に仕事が回ってこないということだ。そのため、失業が増え、犯罪が増えるという結果になる。

トーマス・ファイレイ氏は、「最低賃金の引き上げと犯罪の増加には、直接的な因果関係があることも明らかになった」としている。

最低賃金を引き上げたら、より貧困問題は悪化した


ケイトー研究所では最低賃金の引き上げによって、最も悪影響を受けるのは「若年層の黒人男性」になると結論付けている。最低賃金の引き上げが、むしろ社会の最も弱い層を仕事から排除し、無職に追いやっているのだ。

アメリカの黒人層の生活環境は公民権運動以後の1970年代から大きく向上したと言われている。今やアメリカの大統領も黒人である。

しかし、実際には相変わらずアメリカ社会の底辺に取り残されて這い上がれない人も多く、それが黒人層の貧困と失業に結びついている。

貧困と失業は犯罪を招く。そのため、黒人層が多く住む地区は治安が悪いことが多い。しかも銃が蔓延しているので、ちょっとした諍いがすぐに銃撃戦という結果となる。

こうした地区をパトロールする警察官の過剰行動が問題になっているのだが、人種間の軋轢と共に油断したら自分たちも撃たれるという緊迫した状況があるからだ。

地域の荒廃や暴力や犯罪や憎悪の蔓延というのは、その根幹の部分に「貧困問題」があるのは分かっている。そんなことは誰もが知っている。

だからこそ、今まで多くの人が「貧困層を救出するために最低賃金を引き上げよ」と提言をし、デモをし、政治家に働きかけてきたのである。

「最低賃金を引き上げたら貧困問題は解消する」

誰もがそのように考えていたが、それが逆に貧困層の一番弱い部分、つまりスキルのない人たちから仕事を奪って失業に追いやって問題を悪化させていた。

最低賃金を引き上げると雇用が減って失業が増える


2015年4月。アメリカでは、マクドナルドの従業員が結託して「最低賃金を引き上げろ」と抗議デモを行ったことがあった。この動きは全米200都市に広がり、さらにウォルマートにも飛び火した。

企業のコストの大半は人件費である。企業は利益を出すために、常にこの部分の削減を行っている。

グローバル経済は激しい競争を引き起こし、「コストを削減して商品単価を下げ、競争に生き残る」というのはすべての企業の最重要課題となっている。

マクドナルドもまた世界的に激しい価格競争を戦っており、賃金の引き上げによるコストの削減は大きな打撃となる。そのためにマクドナルドはどうしたのか。

賃金を上げる代わりに従業員を減らし、注文の受け付けを機械化する方向に舵を切ったのである。

まさに「最低賃金を引き上げると雇用が減って失業が増える」を地でいく対処だった。

アメリカは現在、注文のIT化・人工知能化・効率化・機械化・無人化、あるいは流通においても無人化・ロボット化が急激に研究され、取り入れられようとしているのだが、こうした動きはすべて「雇用を排除するイノベーション」である。

最低賃金の引き上げによって雇用が減った上に、こうしたイノベーションが複合的に取り入れられることによって雇用はさらに激減していくことが予測されている。

これは、貧困層がより仕事を見つけにくい環境になり、失業と貧困が進むことを意味している。企業が「最低賃金を引き上げ」を飲むというのは、雇用を激減させるメドが立った時ということでもある。

日本でもまた底辺では同じことになっていく。貧困は「最低賃金を引き上げ」でむしろ加速していくとすれば、それは皮肉なことでもある。



「なぜ貧困なのか?」と、最低賃金の引き上げを求める従業員たちのデモ。これによってマクドナルドは、賃金を上げる代わりに従業員を減らし、注文の受け付けを機械化する方向に舵を切った。


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