2016-03-21

癌の特効薬ができているのだが、それは貧困層には関係ない


癌は今でも死亡率の高い病気だが、新しい治療法も開発されて、この病気は徐々に克服されるようになっている。

新しい治療法としてすでに現場で絶大的な効果を発揮しているのが「免疫調整型抗体医薬」というものである。たとえば、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社の出している「ヤーボイ」という製薬はその中のひとつだ。

健康な人でも癌細胞はあるのだが、この癌細胞が広がらないように抑えているのがT細胞と言われている。

「ヤーボイ」はこのT細胞を活発化させて癌細胞を縮小、もしくは消滅させるための薬である。主に皮膚癌の悪性黒色腫(メラノーマ)に使われる。

しかし、これは完璧な癌治療薬ではない。何しろ重篤な副作用が950症例中に103例、率にして10.8%で発生している。

それでもこの薬は末期の患者に求められ、そして使われている。なぜか。それは「ヤーボイ」を投与した患者の約20%で癌組織が縮小して消え去るような劇的な効果があるからだ。

うまくすれば、治らないと思われた末期の皮膚癌が治る。治療のための切除手術も必要ない。それならば、重篤な副作用があったとしても、生き残るためにこの「ヤーボイ」に賭けたいという患者は多い。


死亡率100%の患者のうち、約20%が生還できる


悪性黒色腫は皮膚の黒点が広がっていく病気である。この悪性黒色腫は他に転移することも多く、とても危険な癌がであると言われている。

私は日本でセックスワークをしていたタイ女性がこの悪性黒色腫と思われる症状を左乳房に大きく発症しているのを見たことがある。

それは明らかに治療が必要なものであった。にも関わらず彼女はそれを放置して、男たちに悪性黒色腫の部位を隠しながらビジネスをしていた。

病院に行く余裕も、治療をする金も彼女にはなかったに違いない。悪性黒色腫と聞けば、いつも彼女のことを思い出す。

彼女はもうタイに戻ったと思われるが、まだ生きているのかどうかは分からない。生きていたとしても悪性黒色腫は自然治癒するものではないので、苦難の人生を歩んでいるはずだ。

「ヤーボイ」のような薬は、彼女のためにも待ち望まれていた薬である。「ヤーボイ」によって、死亡率100%の患者のうち、約20%が死の淵から生還できる可能性が拓かれた。これは画期的なことである。

2015年7月3日、日本でも厚生労働省は製造販売承認を「ヤーボイ」に与えている。

ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社はこの「ヤーボイ」と共に、「オプジーボ」と呼ばれる同じ働きをする癌治療薬も出している。

この2つの薬「ヤーボイ」と「オプジーボ」は、今後ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社の主力になる可能性もある。それほど末期癌の人々に希望を与える治療薬なのである。

ところが……。

2015年10月1日からアメリカではこの両方の薬の同時併用療法が承認されている。この両方を併用することによって、治療はより効果的になるのだが、ここに大きな問題があった。

この治療では、最初の1年間に25万ドル(約2784万円)もかかるのである。

高額治療薬の価格を下げようとしない製薬業界


確かに死亡率100%を宣告された末期癌患者が生還できる可能性がある薬であり、治療法である。それは画期的なことだ。しかし、約2800万円近い治療費を出せる患者はそういない。

日本は国民皆保険制度を取っているので、だいたいの人が3割負担で済むのだが、3割としても750万円である。750万円を出せる人はいるだろうか。

今後「効果的な薬」「新薬」は価格が高騰する可能性があることが指摘されている。

たとえば、今までC型肝炎は治療が非常に困難な病気だと言われていたのだが、アメリカのバイオ企業ギリアド・サイエンシズ社はこの常識を一変させた。

「ゾバルディ」と「ハーボニー」という2つの新薬でC型肝炎は100%近い確率で治るようになったのである。ところが、このハーボニーもまた高価な薬で1粒1000ドル(約11万1470円)もするのである。

この薬は1日1錠を12週間に渡って飲み続ける必要があるのだが、だとすると、84日×8万円で治癒するのに672万円も必要であることになる。

2015年8月には、マーティン・シュクレリという男が13ドルほどのエイズ治療薬の権利を買い取った後、いきなり55倍に値上げして大批判を浴びた事件があった。

マーティン・シュクレリは当初「他の製薬会社も高価格薬を出している」と言って回った。

そのため批判の火が業界全体に燃え移り、製薬会社もバイオ企業も「ぼったくり過ぎだ」「あこぎだ」と激しい批判にさらされて今もそのダメージから立ち直れていない。

マーティン・シュクレリは批判に耐えきれずにエイズ薬の価格を元に戻した。

しかし、C型肝炎の特効薬を持つギリアド・サイエンシズ社も、悪性黒色腫の特効薬を持つブリストル・マイヤーズ・スクイブ社も、高額治療薬の薬価を下げていない。

貧困層は治る病気も治せなくて死んでいく社会に


医学の発展は日進月歩であり、様々なアプローチで創薬が行われていく。

今後も予測もしない特効薬が開発される可能性は高い。場合によっては寿命を延ばす薬でさえも、2020年頃までにメドがつくかもしれない。(「寿命を延ばす」医薬品がいよいよ実現化しようとしている

しかし、新薬の価格は高騰していく。そのため、新薬の恩恵をすべての人が受けられるとは限らなくなる。

高額医療費をすんなりと払える金持ちだけが寿命を延ばし、健康を手に入れ、病気になっても満足な医療を受けることができるようになり、貧困層は治るはずの病気も治らないという世界になる。

すでにHIV(エイズ)の防止薬もできているのだが、この薬も高額なので金持ちしか使い続けることができない。

HIV防止薬は、社会の底辺で身体を売るしかないセックスワーカーが最も必要としているのだが、一番届かなければならないところに届かないのである。

日本は国民皆保険制度によって国民の負担は軽い。高額療養費控除もある。

しかし、高額な治療薬が現場でどんどん使用されるようになると、国の医療費負担は高齢化に合わせて膨れ上がっていき、いずれ支えきれなくなる。

日本の財政赤字は、すでに危機的な水準に化している。もう現在の段階で増加する医療費を支えきれない。

そんな中で高額な治療薬が続々と出てくるようになると、国民皆保険制度は4割負担、5割負担と上がっていくのは避けられない。

さらに高額な治療薬を使う治療は高度先進医療に指定されて、患者の全額自己負担になるはずだ。

つまり日本でも、金持ちが健康で長生きして、貧困層は治る病気も治療できなくて死んでいく世の中になる。文字通り、地獄の沙汰も金次第の社会がやって来る。



日本でも金持ちが健康で長生きして、貧困層は治る病気も治せなくて死んでいく社会になる。社会はますます弱肉強食の資本主義に向かって暴走していく。

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