2016-03-08

「金融資産は無価値になる。現物資産を買え」は単なる脅し


実物資産は、ゴールド、プラチナ、美術品、宝石のような、「そのもの自体に価値がある資産」を指す。ゴールドの指輪もダイヤモンドも立派な実物資産だ。

金融資産と違って、実物資産は「形がある」ということからして人々に安心をもたらす希有な資産であり、それ自体には価値がない株式や債券のような「金融資産」とは違った安心感がある。

しかし、皮肉なことに実物資産が資産の中で一番「素人が手出しをしてはいけない資産」であると言われている。

その理由は単純だ。現物資産がいくら良い物であっても、それが本物かどうか「素人には識別する能力がない」からである。それが故に実物資産の世界はニセモノのオンパレードであり、数々の詐欺も実物資産の世界を中心に行われる。

数百円のガラス玉を高級ダイヤモンドだと偽って1000万円で売れるのが実物資産の詐欺の世界である。ルビーもサファイヤもゴールドもシルバーもアンモライトも、プロの詐欺師の手にかかれば素人は赤子の手をひねるように騙される。

そのため、鑑定書付きの物しか買わないという素人も出てくるのだが、そしたら鑑定書そのものが本物によく似たニセモノであったりする。詐欺師は素人の発想のさらに上をいくものだ。


自転車操業をしていたヴァンネットと内藤忍氏


2016年3月7日、東京都新宿区のワインファンド運営会社「株式会社ヴァンネット」が倒産している。ワインファンドとは何か。

ワインは気候によっても、その土地の環境によっても、さらに熟成度によっても、品質が大きく変動して価格が変わる。そのため、年代物のワインでは超が付くほど高額になる。

そういった性質があるので、熟成前のワインは価格が安く、熟成していくにつれて価格が上昇する。

そこで、熟成前のワインを買い付けて、熟成した頃にそのワインを売って差額を儲けるというビジネスが成り立つ。

その買い付け資金を集め、差額で儲けが出たら出資者に分配するというのが、ワインファンドだった。このワインファンドを運営している日本で唯一の企業が「ヴァンネット」だったのである。

この企業に投資する出資者は、現物資産に投資しているつもりであったのかもしれない。しかし、現物が手元にないのだから、実際にはヴァンネットという得体の知れない企業に投資していたようなものだ。

このヴァンネットは金融商品取引業者の資格を持っていたので「信頼できるはず」と思われていた。さらに、この企業を持ち上げてワイン投資を煽っていた内藤忍氏のような有名な資産運用アドバイザーもいたので、余計に信頼感が増していた。

内藤忍氏はヴァンネットが信用できるとして、そうした著書も出していたのだが、その裏でヴァンネットは投資家や内藤忍氏を裏切っているのが2015年12月25日に発覚した。

関東財務局は「株式会社ヴァンネットに対する行政処分」として、金融商品取引業者としての登録を取り消した経緯を告知している。

「当社(ヴァンネット)は、これまで複数のファンドの取得勧誘を行っているが、過去に償還を迎えたファンドにおいては、別のファンドの資金を流用することにより、実際の運用実績とは異なる高い運用利回りで償還金等を支払っていた。さらに当社は、こうした状況を認識しながら、新たなファンドの取得勧誘を行っていた」

分かりやすく言うと、この企業は自転車操業をしていたのである。新規に金を集めて、既存投資家にその金を回して、いかにもワイン投資が儲かるような演出をしながら投資家を騙して自転車操業に明け暮れていた。

いざ売る段階になると、専門家は買い叩きにくる


では、現物資産を自分で買い付けて自分で保管していれば良かったのではないか、という話になるのだが、最初に言った通り、その「自分で買い付ける」というのが至難の業なのである。

現物資産は、その現物がニセモノだったら何の価値もない。100万円出して買ったものが100円のニセモノだったら、その時点で資産はクズである。鑑定書が本物であっても、現物がニセモノであったら、それはニセモノだ。

そのため、現物資産に関わる人間は、それがニセモノではないという鑑識眼が必要なのだが、その鑑識というのは専門家でも時には騙されるような高度な技術なのである。

そこで次善の策として専門家の鑑定書が重要になるのだが、その鑑定書が本物かどうかの鑑定も必要になる。「自称専門家」の中には、自分で勝手に法的に通用しない鑑定書をでっち上げる人間もいる。

自分に鑑識眼もなく、鑑定書も役に立たないとすれば、それこそ詐欺師に騙され放題となる。素人が現物資産に手を出すべきではないという教訓は、ここから来ている。

稀少金貨が本当に稀少なのか、そのワインが本当に高級ワインなのか、ゴールドの延べ棒は本当にゴールドなのか、ピカソの絵画が贋作ではないのか、それを売りつける人間が本当に信頼できる人間なのか、自分がそれを見抜けないのであれば、いつでも詐欺に遭う。

その上、ほとんどの現物資産は長期で持っていたとしても配当を生み出すわけでもなく、成長するわけでもなく、需要があるわけでもなく、元値もまた保証されているものではない。

おまけに、金に困ってそれを売ろうとすると、専門家はいかに買い叩くかに終始するので、所有者が困窮していればいるほど足元を見られるという不快な側面もある。

現物資産のこうした「闇の側面」は決して表沙汰にならないのだが、こうした危険性があるというのは投資家は知っておくべきだろう。

自分の現物資産が本物かどうかを心配した方がいい


すべての現物資産に価値がないと言っているわけではない。本物の現物資産は魅惑的である。

私は2012年に持っていたゴールドのほぼすべてを処分して株式資産に統一したのだが、それでも思い入れがあって、どうしても処分できなかったものもある。

22歳の頃、生まれて初めて買ったゴールドのネックレスは、そんな処分できなかったものの1つだ。

それは、東南アジアの女性たちのゴールドに対する信頼に感動して、私もゴールドを手元に持っていようと思って買った。こうした思い入れのあるものはどうしても処分できない。

私にもそんな感情があるので、現物資産の魅力や価値はよく分かっている。しかし、ことさら現物資産を賛美するのは落とし穴に落ちるというのは事実である。

現物資産の販売業者の中には、金融資産の王道である株式を「金融崩壊で無価値になる」と脅し、現物資産こそが唯一絶対のものであるような口ぶりで賛美することもある。

それは「金融資産が無価値になるから現物資産を買え」という営業トークの一種であり、単に金融資産を持つ人間に現物資産を買ってもらうための誘導に過ぎない。

「世界が終わるが、教祖を信じている人間だけは生き残る」というカルト教団の手口と同じだ。

「金融市場は終わるが、自分から現物資産を買ってくれた人は生き残る」という手口なのである。カルトに騙されてはならない。それは単なる脅しだ。

現実を客観的に見ると、株式市場は資本主義の中核を為すシステムであり、これが崩壊するときは現代の資本主義が崩壊するも同然である。

そもそも、世界最古の国際競売会社にして世界最高峰の現物資産オークションハウスのサザビーズでさえ、ニューヨーク証券取引所に上場する「株式会社」である。

金融資産の規模と堅牢さは現物資産をはるかに凌いでいるので、心配する必要はまったくない。もし心配するのであれば、それこそ自分の持っている現物資産が本物かどうかを先に心配した方がいい。



稀少金貨が本当に稀少なのか、そのワインが本当に高級ワインなのか、ゴールドの延べ棒は本当にゴールドなのか、ピカソの絵画が贋作ではないのか、それを売りつける人間が本当に信頼できる人間なのか、自分がそれを見抜けないのであれば、いつでも詐欺に遭う。

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