2015-10-02

中国とドイツの失速が確実、いよいよ混迷が深まっている


ドイツの自動車大手VW(フォルクスワーゲン)グループの排ガス問題は、いよいよ問題が大きく広がって、問題発覚から10日もしないうちに、もう売上にも深刻な影響が出ていると報告されている。

誰もがVWグループの車を買い控えるようになっている。さらに、問題のディーゼルエンジンを搭載した車も、単に謝罪してソフトウェアを更新するくらいでは済まないような状況に陥っている。

VWグループは問題のエンジンを搭載した車の修理計画を発表しているのだが、どのように修理するのか未だに発表はないままである。

当初はエンジンの交換は必要なく、不正プログラムを正常なプログラムに変更すれば問題ないという話だった。しかし、排ガスの抑圧を正常に行うプログラムを載せると、今度はディーゼルエンジンの性能を低下させる。

スペック通りの性能を出すためには、どうしてもハードウェアの変更も必要になるというのが専門家の見解だ。

そうだとすると、その修理はかなり高額で長期的なものになる可能性があり、それを全額負担するVWグループは存続の危機に陥るかもしれない。

こうした不透明な状況の中で株価は暴落したままで、奇跡でも起きない限り、以前の水準に戻ることは当面難しそうだ。


損害はどこまで大きくなるのか総額がつかめない


VWグループの株式を保有していたアメリカの機関投資家の代理人は2015年9月25日には早くもVWグループを訴えている。アメリカではこれに続いて次々と集団訴訟が起こされる見込みとなっている。

さらにVWグループの株式の最大の保有者であるカタール政府も莫大な損失を受けている。

カタール政府はスイス最大の企業であるグレンコアの株も大量の保有していたため、この2つの企業の株価下落で7000億円近い損失を抱える。

グレンコアは資源企業だが、中国の成長急減速によって経営に打撃を受けており、株価は暴落していた。まさにカタール政府は弱り目に祟り目の状況に陥ってしまった。

追い詰められたカタール政府がVWグループの責任を追及する可能性もある。そうなったとしても、VWグループはそれを突っぱねることは不可能だ。これは投資家のミスではなく、VWグループの不正だからである。

これ以外にも問題は拡大している。

VWグループはこの排ガス不正ディーゼルエンジンを「クリーン・ディーゼル」と謳って売ってきた。そのため、スペインでは環境をクリーンにするはずの「クリーン・ディーゼル」車を買う人たちに補助金を出していた。

ところがそれが真っ赤な嘘だったので、スペイン政府は激怒してVWグループに補助金で政府が支払った額を返金しろとVWグループに迫った。

2015年9月29日、VWグループはそれに同意してスペイン政府に補助金分を補填することを約束した。

こうした動きが拡大していくと、VWグループは現在の計算よりもはるかに巨額の損失をかぶることになる。損害はどこまで大きくなるのかまだ総額がつかめない。

告発も報告も握りつぶしていたVW幹部たち


この排ガス問題は、当初は幹部は「知らなかった」と発表されていた。

しかし、この不正はなんと10年以上も前から行われていた可能性があり、その間に数々の告発や異常報告が為されていたので、幹部はむしろ「知っていた」可能性の方が強まっている。

知っていたが、「売上向上」のために、告発も報告も握りつぶしていたというのが現実に近いようだ。ちなみにVW内部だけでなく、外部からもVWグループに異常を報告していたようだが、それも無視されていたという。

こうした事実が次々と明るみに出てきている。

それまでの最高責任者だったマーティン・ウィンターコーン氏は、不正問題が発覚するとさっさと辞任して退職金5850万ユーロ(約78.6億円)を受け取ることになっている。

この常識外れの退職金の額にVWグループの内部の人間が激怒して、ドイツの検察庁にVWのありとあらゆる告発が殺到しているとも言われている。

ウィンターコーン氏は退職金を抱えて逃げ切る算段だったが、それが可能かどうかは分からない。ウィンターコーン氏こそがすべてを知る立場だったわけで、今さら「知らない、関係ない、一部の人間がやった」では済まないはずだ。

すでにウィンターコーン氏に対する刑事捜査も開始されたとされている。

ウィンターコーン氏はメルケル首相にも近い人材であり、そうであれば「ドイツ政府は知っていたのか?」ということにもなって、ドイツ全体の問題となっていく。

メルケル首相は合計すると7度も中国を訪問してドイツ車を売り込んでいたが、もしVWグループの排ガス不正があったことを知っていて売り込みをかけていたのであれば、今度はメルケル首相の信用と進退にも関わってくる。

いずれにしても、VWグループのブランドは一夜にして失墜してしまっており、このグループが抱える27万人の雇用者と、その下請け会社の膨大な労働者たちは苦境に堕ちる。

ドイツは、難民の面倒を見る前に、自国の労働者をどうするのかという厄介な問題を抱えることになったのだ。

すでにグローバル経済の変調は全世界に回っている


VWグループが不正ソフトを導入したのは、アメリカの厳しい排ガス規準を満たすディーゼルエンジンが開発できなかったからだと言われている。

何しろドイツ車は絶大な信頼を勝ち取っており、「ドイツ車は優れている」というブランド信仰がそこにあった。今さら「排ガス規準を満たすエンジンは技術力がなくて作れない」とは言えなかったのかもしれない。

それはドイツにとってプライドが傷つく問題だった上に、アメリカ市場では苦戦していてVWグループは焦っていた。そこでVWグループは最悪の選択をした。

不正で逃れることに決めたのだ。

つまり、自ら「粗悪品」を売ることに決めた。それでも多くの消費者がその「粗悪品」を高級品だと思って買ったのは、まさに「ドイツ車は優れているという」崇拝に近い思い込みがあったからだ。

そのブランドの裏で不正による販売拡大が為されていき、それが10年にも渡ってVWグループを支えたが、不正が発覚した瞬間、その10年が無に帰した。

ブランドを構築するのに数十年に渡る地道な努力があったはずだが、ブランドが吹き飛んでしまうのは一瞬だった。昨今の多国籍企業で、これほど衝撃的な形でブランドを崩壊させた企業は珍しい。あの「ドイツ」がそれをしたということに、さらに衝撃が強い。

そのためにドイツ人に対する「真面目」というブランドまでもが一緒に吹き飛んでおり、その衝撃の強さを物語っている。

中国の経済停滞と共にドイツの経済停滞も決定的になると、グローバル経済に与える打撃はより大きなものになる。

スイスの資源会社グレンコアは中国経済の急減速をそのままかぶって株価暴落に見舞われているが、すでにグローバル経済の変調は全世界に回っている。

この不調の波はもちろん日本にもやって来る。それはすでに決定的になったと言ってもいい。日本経済も停滞が余儀なくされると、再び日本の底辺で失業やリストラが舞い戻る。

いよいよ混迷が深まってきている。



ウィンターコーン氏は退職金を抱えて逃げ切る算段だったが、それが可能かどうかは分からない。ウィンターコーン氏こそがすべてを知る立場だったわけで、今さら「知らない、関係ない、一部の人間がやった」では済まないはずだ。

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