2015-03-28

貧困しか知らない新しい世代は、貧困で自殺することはない


日本は治安の良さでは世界でもトップクラスだ。清潔で、過ごしやすい。しかも衰退しつつあるとは言え、今でも世界有数の経済大国である。

他国から見ると、日本は「非常に成功した国」のひとつであると言っても過言ではない。

ところが、自殺率を見ると惨憺たるものがある。これだけ暮らしやすい先進国であるにも関わらず、日本では自殺者が1万人を超える11ヶ国のうちのひとつで、先進国として見ると突出して自殺が多い。

日本が「自殺に追い込まれやすい環境」であるということだけは確かである。

日本で自殺が多いと言うことは、日本には自殺を誘発する何らかの原因があるということでもある。

警視庁が発表している「原因・動機別の自殺者数」によると、日本人が自殺する5大理由というものがあって、それは以下のようなものと分類されている。


日本人を死に至らせる5つの理由とは?


第1位 健康問題
第2位 経済・生活問題
第3位 家庭問題
第4位 勤務問題
第5位 男女問題

原因不明の自殺も多いのだろうが、自殺者のほとんどは上記の5つの問題のうちの1つを抱えている。

圧倒的大多数が「健康問題」で第2位の経済・生活問題を2倍以上も引き離している。だが、「健康を害した」と言っても、具体的に身体の「どこ」を悪くして自殺を考えるようになったのだろうか。

「健康を概して自殺」と言うと、私たちは漠然と「交通事故か何かで手足がちゃんと動かなくなって自殺した」「老いて寝たきりになった」と思い込みがちだ。

しかし、警視庁の自殺統計を見ると、実は日本人を最も自殺に追い込んでいる病気は「心の病気」、すなわち「鬱病」だったのである。

鬱病というのは、何もないところから急になるものではない。「何らかの原因」がその人を追い込み、心を破壊し、自殺に追いやっている。「何らかの原因」の正体が、まさに自殺の原因である第2位以下のものである。

日本人の自殺は、

「経済問題で追い込まれ、鬱になって、自殺する」
「家庭問題で追い込まれ、鬱になって、自殺する」
「勤務問題で追い込まれ、鬱になって、自殺する」
「男女問題で追い込まれ、鬱になって、自殺する」

というのが、その正体であると捉えておけば、だいたいにおいて間違いない。

日本人を自殺に追いやる経済問題とは何だったか?


経済的問題というのは、要するに「貧困問題」である。生きていく金がなくなって人は絶望し、自殺する。

しかし、日本はこれでも世界第三位の経済大国である。貧乏が人間を死に追いやるというのであれば、フィリピンのような貧困国では自殺者続出でなければならないのに現実は逆だ。

「貧困国フィリピンでは自殺が少ない」
「富裕国日本では自殺が多い」

だとすれば、日本の貧困問題は、途上国のものとは「何かが違っている」ということなのだ。その理由に答えてくれる統計はない。いろいろな解釈があって然るべきだが、どんな解釈が考えられるのだろうか。

日本の自殺率が3万人を超えるようになったのはバブル崩壊以後の1998年から2011年までである。

1つの解釈として考えられるのは、「日本人を自殺に追いやる経済問題」とは「持っているものを失う喪失感」の経済問題なのではないかというものだ。

自殺率が急上昇したのは1998年だが、これはバブルが崩壊して、もう日本は土地も株も上がらないと誰もが悟ってあきらめた年でもある。

バブル崩壊は1990年からだが、最初の数年は「また上がる」「再び日は昇る」と能天気に考えている人も多かった。しかし、何年待っても経済は縮小していくばかりで、1998年にもなると多くの日本人の心が折れた。

持っていた資産がバブル崩壊で吹き飛び、どうあがいても取り返せない。土地も株式もバブル期に戻らない。この頃から武富士のようなサラ金が日本を代表する金満企業として浮上したのは記憶に新しい。

生活水準が落ちていくという失意が日本人を蝕む


サラ金屋が日本有数の時価総額を持つ企業となったというのは、つまりは日本人の多くはバブル崩壊の資産喪失を、サラ金の自転車操業でやりくりしていたということを意味する。

1998年から自殺者が3万人を超えて、それが常態化したというのは、つまり自転車操業に行き詰まった人が、もうどうしようもならなくなって、最後に自殺を選んでいたという闇の世界が見えてくる。

フィリピンのような最初から貧困にいた人たちは、最初から何も持っていない。持っていない状態が生まれながらの日常だ。だから、金を持っていないということで自殺というのは、よほど追い込まれない限りあり得ない。

しかし、日本人のように「持っていたものを失っていく」というのはつらい。生活水準を落とすというのは、誰にとっても失意を感じさせるものである。

右肩上がりの賃金から、右肩下がりの賃金へ。広い家から狭い家へ。豪華な食事から質素な食事へ。ブランドの服から安物の服へ。安心から不安へ……。

そうやって、ひとつひとつ自分の生活レベルが堕ちていくと、それだけで憂鬱になっていく。

バブル崩壊以後、日本人は何とかしようと足掻いた。しかし、何ともならなかった。そして、挫折感や失望感にまみれていくことになった。それが日本人の自殺率を上げていたのではなかったのだろうか。

そう考えると、最近になって自殺率が減少してきたのも、何となく理解できるはずだ。

以前より社会環境が悪化しているのに、自殺率が減少してきている。それは、いよいよ「最初から何も持っていない」人が増えたからであると言える。

貧困しか知らない世代は、単に貧困だからと言って自殺しなくなる。そこには、人を激しく失意に陥れる挫折感や喪失感がないからだ。

すべての世代が貧困に落ちていくと、「生まれながらの貧困層」だらけとなって、皮肉なことに自殺率は減っていく。日本もそうなりつつある。



以前より社会環境が悪化しているのに、自殺率が減少してきている。それは、いよいよ「最初から何も持っていない」人が増えたからであると言える。

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