2011-12-27

過去の統計グラフで未来を語るな。ナシーム・タレブの嘲笑


ナシーム・ニコラス・タレブという数理系トレーダー上がりの大学教授がいる。

この教授に『まぐれー投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』という書籍がある。これはとても重要な書籍だ。

簡単に言うと、「プロのトレーディングの成功は、ほとんどの場合、彼らのプロとしての腕前によるものではなく、まぐれにすぎない」という事実を論証したものである。

この書籍は、なかなか示唆に富んだいくつかの事実を皮肉をこめて書かれている。


ブッシュ大統領は死なない


この書籍で一貫して述べられているテーマがひとつある。

投資家・証券会社上がりの分析家・一部のトレーダーが、データを積み上げて「知った口」を聞いているが、それがいかに成功しないかということである。

人はグラフを提示されて、それを説明されて説明されると、まるで催眠術に遭ったかのように信じてしまう習性がある。グラフを見せられると、あたかもこれから起きることが1つしかないように見えるのだ。

タレブ氏は「それが危険なのだ」と説く。

グラフを見て判断できるのは「過去がそうだったから、こうなる」というものである。もちろん、確率的に考えればそれは正しいのだが、タレブ氏はこのように言っている。

「過去と未来は違うものであり、過去はそうでも未来は違うかもしれない」

また、グラフを見せて、あたかも「次はこうなる」ように見せていても、そもそもグラフそのものが都合の良い情報だけを切り取ったものかもしれない。とも言う。「統計の嘘」というものだ。

また、多くの人間が知っている通り、グラフの解釈も、その人に都合の良い解釈ができるのである。

グラスの半分の水を見て「まだ半分もある」「もう半分しかない」というのは同じ物を見て出した結論だが、どちらも同じ「データ」を見て解釈だけが違うものだ。

解釈が違うだけならいいが、間違っているものも多い。タレブ氏がこの書籍の中で出している興味深い「たとえ話」はこれだ。

先ごろ私はブッシュ大統領の寿命について綿密な統計的検証を行った。58年間、21,000件近いサンプルにわたって、彼は一度たりとも死んだことはなかった。それゆえ私は、彼が高い確率で不死身であると断じるものである。



グラフを元に解釈する人間を冷笑


ナシーム・ニコラス・タレブ氏が何を言わんとしているかというと、データを見せて解釈してばかりの人間は、危険な人間だということに尽きる。

やたらとデータばかり見せて解釈する人間がいたら、それはあなたをどこか誤った場所に連れて行く人間かもしれないのである。

確かに直感であれこれ語る人間よりも、データで語る人間のほうが知的であり、優秀であり、よく勉強している秀才だ。

しかし、それを過信していたり、過信させたりする人間は途端に「信用できない人」に堕してしまう。

相手がノーベル賞を取った学者ですら、その「データ過信で自滅する」と、LTCMのマイロン・ショールズ氏、ロバート・マートン氏のノーベル経済学賞受賞者を暗に嘲笑しながら説明する。

この2人の関わった天才の集まるヘッジファンドは1998年に史上空前の損失を出して倒産していったが、その決定的なミスは「データの解釈の間違い」だった。

LTCMはロシアが債務不履行を起こす確率は100万年に3回だと計算していた。それなのに、それが1998年に起きた。

ちなみにこのマイロン・ジョールズ氏は2008年に新たなファンドを作ったが、そこでも失敗している。

過去のデータを集めて「過去はこうだったから、こうなる確率が高い」のような確率論を未来に当てはめたのだろう。

しかし、2008年9月15日はリーマン・ショックが金融市場に襲いかかり、空前のパニックになった年だ。過去のデータなど何ひとつ役に立たなかったのが2008年の下半期だったのだ。

過去データでグラフでも作って世の中が読めるのなら、分析屋はみんな金持ちだ。現実は、まったくそうなっていない。

不連続性の連続。データ通りの未来はやって来ない


タレブ氏が、グラフやデータを元に何かを解釈する人間を徹底的に冷笑し、「まぐれ」だとせせら嗤うのは、過去を振り返ると、いつも過去が決まっているが、未来は決まっていないからだと言う。

データ通りの未来などやって来ない。多くの証券会社上がりの分析屋が間違うのはここだ。

確率的に正しいのだが、確率がすべてではないということである。

コインを投げれば五分五分の確率で表か裏のどちらかが出る。過去のデータで「表」が出たから、確率的には次は「裏」だというのが間違った確率の使い方だ。

なぜなら、過去のデータと未来は「連続していない」ので、過去が「表」だろうが「裏」だろうが関係ないからである。どんなにコインを投げても、それは不連続である。

しかし、データを見て判断する分析屋は往々にして錯覚に落ちて、解釈を誤る。それで、「ブッシュ大統領が不死身だ」というような馬鹿げた解釈をするのである。

その分析屋がデータをどのように扱っているのかは、タレブ氏によると、テクニカル分析を自慢気に語るかどうかで馬鹿かどうか分かるらしい。

株価はまさに「不連続性の連続」で、それをテクニカルで語るというのは、馬鹿の象徴なのだという。タレブ氏はその結末をこのように語っている。

運がいいだけのバカは過去にいい目にあったかもしれないが、長い目でみればそんなに運が良くないバカの人生に落ち着く。
その筆致は非常に痛烈だ。


ナシーム・ニコラス・タレブ。皮肉とペダントリーが散りばめられた『まぐれ』の著書

「未来は何が起きるか分からない」という論旨


タレブ氏の論旨は明快だ。「未来は決定的に過去と違う」「未来は何が起きるか分からない」「未来は確率では出せない」「未来は誰も知らない」という点だ。

だから、データやグラフを持ち出して未来を解釈したところで、それは一見「正しい」ように見えても実は根本的なところで誤っていると言う。

一番成功しているトレーダーとは、一番最近の市場のサイクルに、一番適応した人たちである。市場が変わると一掃される。
金融市場では、まったくの偶然で大儲けできることがある。しかし、まったくの偶然で大損することも多い。
ファイナンスでもそうだが、重大な結果をもたらす事象は、めったに起きなくても無視してはならない。歴史の教えるところでは、これまで起きたことのないことでも起きるときには起きる。
市場が三ヶ月で20パーセント以上下がることはない、という命題は検証できるけれども、検証したところで将来はそうならないという保証はない。過去のデータのパターンをいくら読んでも将来に当てはまらない。
こういった例をひとつひとつ上げながら、例の有名な黒い白鳥(ブラック・スワン)のたとえが出る。

データを集めるのは仮説を支持するためではなく、捨てるために使うほうが安全だ。なぜなら、白い白鳥を何羽見ようと、すべての白鳥は白いと推論することはできない。一方、黒い白鳥を一羽でも見かければ、その推論を捨てるのに十分である。



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